文フリガイド編集委員会通信

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文学フリマガイドブック 2015年秋(通算第8号)特集「青砥十インタビュー」全文公開

『文学フリマガイドブック 2015年秋(通算第8号)』において特集として掲載した「青砥十インタビュー」の全文バージョンを、下記に掲載致します。分量としてはガイドブックに掲載した抜粋バージョンの2倍以上となる、約1万字です。是非、楽しんでください。

──本日はお忙しい中、お時間いただき、ありがとうございます。『後輩書記とセンパイ会計、不浄の美脚に挑む』に始まる後輩書記シリーズで知られる、青砥十さんにお話をお伺いさせていただきます。よろしくお願いします。

青砥十(以下、青)よろしくお願いします。

──まずは創作活動を始められたきっかけから教えてください。

 小説を書き始めたきっかけは、高校の学校文集です。小説とか評論とか、生徒会室に持っていくと、載せてくれたんです。それで、ちょっと怪談めいた推理小説を書いたんですよ。刷り物になった経験は、それが初めてですね。本格的に書き始めたのは、大学に入ってから。文学部だったので、文学っぽいことをしようと思ったので、最初は文芸部に体験で行ったんです。でも、そこは読書会の部活で、書いてるひとはほとんどいなかったんですね。それで小説を書くサークルを学科で知り合った友達と立ち上げたんです。新入生歓迎会でビラを配ったら、十人くらい集まったかな。社会人になってからはネット小説。ショートストーリーのコンテストに出したり、投稿サイトに投稿したり。そうして書いたものを、自分のホームページに載せてました。

──まだsleepdogというハンドルネームで活動されていた頃ですね。

 そうですね。sleepdogをやめて青砥十という漢字の筆名に変えたきっかけは縦書きの本に寄稿するようになったからです。超短編サイト『五〇〇文字の心臓』を通じて知り合った立花腑楽さんが夜道会というサークルを立ち上げて、『へんぐえ』という妖怪を題材とした掌編競作集を作り始めたのですが、そういう本に寄稿する時もすべて青砥十で統一したんです。妖怪物を書き始めたのも、同じタイミングですね。

──妖怪物に来る前だと長編『全力のハクア』を小説家になろうで書かれてましたね。

 書いてました。でも、東日本大震災で精神的に疲れてしまって、結局続きませんでした。

──後輩書記シリーズは震災後ですね。

 今になって思うと、大震災の影響で、自分の作品を本として残したいという気持ちになりました。ネット小説はサイトが閉鎖されていつの間にか消えてることがあるじゃないですか。それに対して、紙の本は手元に残って思い出になるのがいいなと思います。それに、自分の作品の価値を問い掛けたいという気持ちもありました。どれくらい買ってもらえるのか、それとも買って貰えないのか。

──本の題材として妖怪を選ばれたのは、どうしてでしょうか。

 大震災の直後に、アンソロジストの東雅夫さんと「ふるさと怪談トークライブ」でお話をお伺いする機会がありました。全国の有志に呼びかけて、土地に根付いた伝承を見直しながら、義援金を東北に送るという活動だったのですが、感銘を受けました。妖怪は物語の題材としてとても面白いと思ったんです。

──後輩書記シリーズは妖怪小説ですけれど、ゆるふわ妖怪小説を名乗ってるだけあって、一般的な、おどろおどろしい妖怪のイメージからは遠いですよね。

 当時は心が疲れていたので、癒やしや安らぎが欲しかったんです。ほっこりほんわりとしたものを書くことで、地震報道で疲れた自分自身を慰めたかった。でも、やるからには自分らしいものを書きたいと思って、まずはプロの既存の作品を分類してみたんです。たとえば京極夏彦。京極夏彦だとキーワードとしては、シリアス、怪奇、長編、そしてうんちくですね。一方、怖くない短編と言えば畠中恵の『しゃばけ』がありますけれど、案外、現代を舞台にしたものは、パッと思い浮かばないんですよ。

──妖怪で現代なら『学校の怪談』がありますけれど、怖いですよね。

 そうですね、マンガだと『地獄先生ぬ~べ~』もあるけれど、あれも意外に怪奇でシリアス。だから、なごみ系で裏切られることがない、「めっちゃ怖かった!」とトラウマになることもない、しかも読みやすい短編集という形式の安心安全な妖怪物。自分の書きたいゆるふわと、まだないものが一致したんです。

──敢えて言うと、西尾維新の『化物語』に始まる物語シリーズが近いかもしれませんね。

 西尾維新の物語シリーズには影響を受けました。若者向けで、ギャグ要素が多いという共通点がありますね。他には森見登美彦『有頂天家族』や香月日輪『妖怪アパートの幽雅な日常』も。でも、たとえばハーレム物にはしていないなど、どこかしら差別化をはかっています。

──実際に本を作って、最初に出されたのは何処ですか?

 二〇一二年五月の第十四回文学フリマです。最初は加楽幽明くんと根多加良くんの三人でお金を出し合って、闇擽+くずかご+眠る犬小屋という長いサークル名で参加しました。頒布したのはシリーズ一巻『後輩書記とセンパイ会計、不浄の美脚に挑む』ですが、実際に後輩書記シリーズに含まれるのは半分くらいですね。残りの半分は、今までに書いた妖怪物を収録しました。初版は百部刷って、この日は三十部を持参しましたが思いがけずなんと完売しました。買ってくれたのは主に、sleepdogとしての自分を知っていた友人たちでした。もし、知り合いがいなかったら、三十部売れたかどうかは分からなかったですね。最初のスタートを気持ちよく切れたのは幸いでした。それに、幽明くんと根多加くんと出られたのも大きかったですね。『五〇〇文字の心臓』管理人の峯岸くんは「一冊ずつちょうだい」と言ってくれました。

──そうして首尾よくスタートできたので、二巻の制作に着手されたわけですね。

 ちょっと違いますね。実は一巻を作りながら、伊藤鳥子さんの『絶対移動中』や秋山真琴くんの『ゆる本』などのアンソロジーにシリーズ作品を寄稿していたので、ある意味で並行して作業していました。作品の知名度を上げるにはアンソロは結構大事で、たとえば『ワンピース』を読みたくて『ジャンプ』を買うひとはいるけれど、新人のデビュー作を読む目的で買うひとは少ないじゃないですか。でも『ワンピース』を読み終えた後に、他の作品を読んで、その作品のファンになるということはある。だから、声を掛けやすかったサークルのアンソロジーに書かせてもらったんですよ。それで、青砥の存在を知ってもらおうと。

──そうだったのですね。

 秋山くんの『ゆる本』もそうだけど、アンソロジーは三ヶ月縛りを設けているサークルが多いので、その期間が経ったところで本に掲載しています。書き下ろしをずっと続けるというのはしんどいけれど、一冊の本を作りながら、次の巻の準備を、出来るところから始めておくと精神的にもけっこう楽。僕の場合は、挿絵を葛城アトリさんに描いてもらっているので、アトリさんのスケジュールを考慮する必要もありますね。だいたい、一ヶ月に一本書いて、その挿絵をアトリさんに描いて貰っている間に、次の一本を書いていました。

──二巻以降は文学フリマ以外の即売会にも、積極的に出られてましたね。

 そうですね。僕の年間の同人イベントへの参加回数、どれくらいだと思います?

──六回くらいですか?

 その倍くらいかな。最初は皆と同じくらいだったんだけど、どんどん増えていったんです。背景はTwitterでの繋がりですね。妖怪関係のひとをフォローしていったら、妖怪物作りのイベントに関する情報が目に入るようになって、出てみようと思って事務局に「小説でもいいですか?」って問い合わせたら「妖怪物だったらいいですよ」と回答が来るので、申し込みを続けていったら増えたんです。京都のモノノケ市、深川のお化け縁日、谷中の妖店通り商店街、後は妖怪オンリー。妖怪物のオリジナルを出せるところだけでも、年に十くらいはあって、その内の半分は出ています。

──そんなにあるんですね、でも、そういうイベントで小説を売るのってどうなんですか?

 アウェイ感ありましたね。同じ本だと、写真集やマンガはあるけれど、ほとんどが雑貨だから。狐面とかアクセサリーとか。でも、だからこそ目立つし、面白い。それに、ゆるふわ妖怪小説というコンセプトは、普段から小説が好きなひとだけでなく、昔は読んでたけれど、今はそれほど読んでないひとたちに受けることに気がつきました。そして、予想以上に売れました。後、創作雑貨系のイベントは楽しいですね。他のブースを見ていても、カラーコーディネートを意識したり、展示や並べ方を工夫していたり、小さなブースの中に独自の世界観を作っているんです。デザイン系のクリエイターさんたちの、センスある仕事が間近で見られるから面白いんですね。勉強にもなります。

──青砥さんのブースでも、何か工夫をされているんですか。

 本の陳列角度を斜め七十五度にしてます。平積だと間近に来ないと表紙が見えないけれど、斜め七十五度で置くと、遠くからでも表紙を見てもらえる。後、ポスターも欠かさずやっています。後輩書記シリーズはポプルスに印刷をお願いしてますが、表紙のリサイズで安い価格でポスターにしてくれて、本と一緒に届けてくれます。ポスターの良いところは三つあります。一つ目は、大手のサークルであるように見える。信頼感を与える手っ取り早い方法です。二つ目は、知り合いがうちのサークルを見つけやすいこと。いつも買ってくれる常連のひとが寄りやすいということです。最後は情報発信です。ポスターが変わることで、新刊が出たことがすぐに分かります。

──青砥さんのブースと言えばポスターがあることもそうですが、グッズも多いですよね。

 三巻のタイミングで缶バッジを作りました。創作雑貨系のイベントに出るようになってから、グッズに興味を覚えて、発注方法をネットで調べました。創作雑貨系のイベントでは、ふみちゃんのイラストに関心を持ってくれるひとがいても、小説は読めないと言う方がいたので、そういった方と接点を作りたいと思ったのがきっかけです。

──小説以外という観点では、四巻と同じタイミングでドラマCDも作られていましたね。

 その頃から読者と一緒にシリーズを作っていくようになりました。ドラマCDには三味線の曲が入っていますが、あれは大阪で師匠をしている読者の方に弾いていただきました。その方と妖怪の話をしているときに「三味線妖怪って知ってますか?」と聞かれて、そこからトントン拍子で話が進みました。ただ、三味線だけだとゆるふわ成分が少ないので、会話劇を入れようと思って、フォロワーでニコ生をやっていた方々に声を掛けてお願いしました。

──世界さん役のアグリーさんがニコニコ生放送で後輩書記ラジオを一年ほど放送されていましたが、これがきっかけなのですね。

 コミュニティが出来てから作品が作られることって、現実にはあんまりなくて、作品が作られてからコミュニティが出来ることの方が多いと思います。お互いが信頼できると言うか、一緒に楽しいことができる間柄だということが分かって、もう少し関わりあいたいと思って、それでコミュニティが出来上がるんです。後輩書記のサイトには、読者のページも設けていますが、ここでは読者が描いてくださったイラストを取り上げています。少し話は逸れますが、長続きする作品としない作品の違いのひとつとして、読者を参加させたり、読者と一緒に楽しむ姿勢というのがあると思います。読者の反響があればモチベーションも維持できますし、その声を聞き入れて作品を良くしたり、バリエーションを増やしたり出来ます。一方、気に入ったひとが手に取ってくれればそれで構わないというひとは、自分の作りたかったものを形にし終えたら、やりきったと考えてやめてしまうのかもしれませんね。

──キャラクタ展開について、もう少し聞かせてください。

 メインのキャラクタは五人です。青春物として、男の子と女の子をバランスよく出そうと思いました。キャラクタは五教科になぞらえて、国語のふみちゃん、数学の数井くん、社会の世界さん、英語の英淋さん、そして理科の銀河さんです。人気マンガの『黒子のバスケ』なども、キャラクタの名前に色が入っているけれど、キャラクタの性格付けのモチーフは重要だと考えています。何よりも分かりやすいですし、久しぶりに読み返した方もしっくり来ます。国語が好きで文系のふみちゃんと、数学が好きで理系の数井くん。

──キャラクタの分かりやすさもさることながら、ストーリー自体もテンプレートがありますよね。

 二巻を作ってたときから、完全にシリーズ物を意識していました。たとえば『ちびまる子ちゃん』だと学校か家かで話が始まって、まるこが我儘を言うか、おじいちゃんがボケるかして、最後はお母さんに怒られたり、たまちゃんに慰められたりして終わる。『ドラえもん』だと、のび太がジャイアンにぶっとばされるか、スネ夫に自慢をされて、ドラえもんに泣きついて道具を出してもらうんだけど、のび太がしっぺ返しを食らって終わる。シリーズ物の安定感って、定形のパターンを作って、その通りに進むことなんです。毎度おなじみ、いつも通り楽しめるという安心感がありますが、そのパターンに収まってるだけだとマンネリ化します。定形のパターンの中でも、色んなバリエーションをやったり、アレンジを加えたり、語り手を変えたりして新鮮さを用意する。これは、書き手として、ひとつのチャレンジです。

──確かに三巻まではテンプレートが守られますが、四巻と五巻ではイレギュラーな要素が多いですね。

 ネタバレになるので、あまり言えませんが、いろいろなアレンジを試みました。また起承転結の転の部分を時に激しくしたり、妖怪と直接的にやりあう話にしたり。後は、五巻では宵町めめさんと蘭陵亭さんに挿絵をお願いしたり、そういう面でも読者を飽きさせない工夫を試みました。

──マンネリを避ける手法として、ライトノベル系だと、一巻ごとに新しいヒロインが登場して、十巻になる頃には十人のヒロインがいるような話もありますね。

 新キャラは正攻法だと思います。でも、新キャラを出した上で、主人公の存在感を残そうと思うと、物語の構造としてハーレム物になってしまうんです。西尾維新の物語シリーズも、それですね。僕は五人のキャラクタを愛し続けると言うか、等しく扱い続けるというスタンスを貫くことにしました。

──敢えて言うならば、シリーズ七冊目の『後輩書記とセンパイ会計、不朽の追憶に挑む』通称、過去本に新キャラが登場しますね。

 はい、メインシリーズは五人で書ききりましたが、六冊目以降の番外編では枠組みから、はみでてもいいんじゃないかと思って新キャラを投入しました。数井円花という数井くんの妹です。

──新キャラ誕生秘話として、青砥さんの奥様から一言いただこうと思います。

羽二重もちこ(以下、羽)新キャラを出そうかなーと言ってたとき、メインキャラ五人の中に、ドジキャラがいないよねということを話してたんです。

──確かに、いませんね。

 それで、新キャラを出すなら、ドジキャラがいいんじゃないかと言ったんです。

──なるほど。

 ドジの理由は、私がハンバーグの上に乗っていた目玉焼きを、服の上に思いっきり落としたことです。

──えっ、奥さんドジキャラなんですか!

 そういうつもりじゃないんですけど……。

 トラブルメーカーって意味じゃなくて、可愛いドジキャラはいても良いかなと思ったんですよ。

──キャラクタの話に戻しまして、先ほど男女のバランスを良くしたと仰っていましたが、銀河さんは超越したキャラクタと言うか、他の四人を見守る狂言回し的な立ち位置ですよね。

 大学生の銀河さんは保護者らしくない保護者であり、運転という手段で、ふみちゃんの行動範囲を広げる役割を負っていますね。妖怪の中には、その土地を離れない妖怪がいます。たとえば河童は日本全国にいるので、ふみちゃんも地元で出会えますが、座敷童は地元にはいないので、東北に会いに行くしかない。妖怪だらけの中学校ではないことが、後輩書記シリーズの特徴のひとつです。

 むしろ学校のシーンは少ないくらいだよね。

 文化祭や学校行事は書いてるけれど、授業は書いてないね。お化けだらけの学校にしないのは、既存のシリーズ物のアンチテーゼで、たとえば『ぬ~べ~』の学校がほんとにあったら社会問題になるよね。『名探偵コナン』だって、コナンの回りでひとが死にすぎている。でも、理由を用意している作品もあって、『うしおととら』だと、獣の槍が妖怪を呼ぶという設定があるし、物語シリーズだと北白蛇神社に伝説の吸血鬼が訪れたことで、怪異を呼び寄せるようになったという設定がある。ふみちゃんの場合は、見えるだけで、ふみちゃん自身が呼び寄せるわけではないので、各地へ行く足が必要だった。だから、大学生で、ノリが良いキャラクタを出した。銀河さんが超アウトドア派なのは、そういった事情が背景にある。銀河さんがいなかったら、シリーズ六冊目『愛知妖怪短編集「ゆるこわ」』も成立しなかっただろうね。

──今後、文学フリマ百都市構想の中で、各都道府県で文学フリマが開催されていくことになると思いますが、各地の妖怪を取り上げた作品を書く予定はあるのでしょうか。

 都道府県別に作りたいと思ってますよ。

──え! 四十七冊?

 いやいや。日本をおおまかに三等分して、上中下の三冊で日本地図を完成させるような構想はあるけれど、今の執筆スピードでは難しいから、実現するかどうかは分からないですね。

──ストックとしては、第一回北海道コミティアに合わせた北海道と、上住断靭さんの大坂文庫へ寄稿した大阪の二作がありますよね。

 ありますね。表に出てない作品ももう少しストックとしてあります。ただ、悩ましいのは、パッとした妖怪がいない県です。何を、どう扱うのか難しい。後は、中学生のふみちゃんが日本全国に行けるのかというのも疑問。この疑問を解消させるには、大人ふみちゃんかもしれないけれど、今は、そこまでは考えてない。

──今まで伺ってきた通り、シリーズ物の特性として、いつまでも続けられるはずですが、五巻で完結とさせたのには理由があるのでしょうか。

 俗っぽい理由ですが、価格ですね。全五巻を一気に揃えようとすると二八〇〇円です。全巻買いするにしても、三〇〇〇円が限界ではないかと思います。

 私だったら尻込みします。

 もし四〇〇〇円だったら、秋山くんどうする?

──買わないかもしれませんね。

 でしょ。だから区切りもいいし、五巻で区切ることにしたんです。実は、今でもイベントごとにひとりかふたりは、全巻買いをしてくれるひとがいるんですよ。そういうひとたちのためにお金の面でも分量面でも優しくしたかった。

──では、無事に完結を迎えて、完結記念イベントの後輩書記カフェはいかがでした?

 総決算だったので、アトリさんの表紙・挿絵のポスターをすべて貼り出しました。お客さんを後輩書記の世界観で包み込みたかったのです。荒木飛呂彦原画展「ジョジョ展」みたいな発想ですね。荒木先生の描いたジョジョの世界に包み込まれるじゃないですか。後は、作品の中のリアリティを出すために朗読劇と生歌を企画しました。後輩書記ラジオのボイスキャストの中で、舞台の経験のある方に協力して貰いました。それとスペシャルグッズも作りましたね。

──川底ラムネがありましたね。

 はい、宵町めめさんの『川底幻燈』とコラボして川底ラムネを作りました。さらに、名札とかも凝りました。後輩書記カフェという企画自体は、アニメのコンセプトカフェにならいました。デュラララカフェやまどマギカフェ等、期間限定のカフェで、キャラクタにちなんだ飲み物や食べ物をゲストに提供しますよね。

──なるほど、それにしても完結記念でイベントを企画するのは、前代未聞ではないでしょうか。

 同人業界だとめったにないですね。

 イベントの内容としても濃かったと思います。そこは、本業が企画関係ですので、企画屋の名にかけて頑張りました。

──宵町めめさんとの『川底幻燈』コラボの他、DREAMprojectとのドリームコラボ等、コラボレーションに積極的ですが、どういった意図があるのでしょうか。

 コラボレーションは一言にまとめると、お互いのファンの交換です。後輩書記には後輩書記のファンがいて、コラボ先にはコラボ先のファンがいます。それぞれのファンに、それぞれの作品を知ってもらうための手段です。企業間のコラボも同じですね。飲食店が何らかの作品とコラボして、オリジナルグッズを作るのは、新規顧客を増やすためです。でも、それだけじゃなく、このひとと組んだら楽しそうなことができそうという想いもあります。たとえば、ドリームだと演劇ですね。二〇一五年の内にボイスドラマ作りを進めて、二〇一六年にはさらにお芝居になる構想中です。自分の作品の世界が、自分が表現できない形で表現されるのは楽しいです。

 アニメになるときも来るかもね。

 アニメは超ハードルが高いから、どうかなぁ。声があたって、人が動くだけで、僕は満足ですね。それだって、小説からしたら、相当な飛躍ですよ。

──最後に、三〇〇〇部突破の秘訣を教えてください。

 それは、コンセプトです。根底となるコンセプトを守り、発展させて続けてゆく。後輩書記シリーズの場合、ゆるふわ妖怪小説というコンセプトワードを、ずっと作者と読者の間で持ち続けています。そこはブレないようにしています。だから、読者もリピートしてくれます。それ以外では、自分から行動するというのも大事です。読者がいそうなところに、自分から向かっていきます。僕の場合は創作雑貨系に行かなければ、三〇〇〇部は行かなかったでしょう。確かにアウェイ感はありましたが、そのアウェイ感を楽しむ気持ちで向き合いました。後は現実的には、既刊を絶やさないことですね。特に一巻はいつでも用意しています。でも、やっぱりいちばん重要なのはコンセプトです。コンセプトって広告業界に入ったときに、先輩から最初に教わったんですよ。コンセプトは、あらゆるものの判断基準になる、と。たとえば表紙。二種類の案が出てきて、どちらも良くて決めかねたときはコンセプトに従います。だから、後輩書記シリーズは怖い絵柄の表紙じゃないんですよ。メインシリーズの表紙には、妖怪すら描かれていない。ふみちゃんと数井くんだけが描かれています。コンセプトは、あらゆるものに答えを出すものなんです。

──今後、後輩書記シリーズを、どのように発展させていくんですか?

 メインシリーズは完結したので、今後は番外編のバリエーションを増やしていきます。キーワードは、ゆるふわ妖怪小説プラスアルファ。一つ目のアルファは「愛知妖怪」で、二つ目のアルファは「過去」、三つ目のアルファは「ドリーム」コラボでした。四つ目は「刀剣」を予定していて、五つ目から先は未定です。愛知以外の地域かもしれないし、世界に行こうという話もあります。妖狐にも興味があります。構想だけはいくつもあって、材料は集めているけれど、まだ本を作るには至っていません。

──後輩書記シリーズは、これからも膨らんでいくわけですね。

 読者には「今回はこういう切り口で来るのか!」という感動を与えていきたいと思います。

──ちなみに総集編は作らないのでしょうか。

 今のところ予定はないです。

──ハードカバーで、五十部限定なら行けるんじゃないでしょうか。あるいは、全巻を収納する箱だけでも。

 箱って実は高いんですよ。実はコンプリートボックスを作ろうと思ったことがあって、メインシリーズ五冊と過去本までの合計六冊がきれいに入る寸法で見積を取ったことがあるんです。でも、これがけっこう高かったんですよ。そもそも、箱は、設計図を書いてから作るものなので、大量作成向きなんですよね。五十部や百部程度だと、あまり価格を下げられない。安く作ることができる仕組みを見つけたら、また考えるかもしれないけれど。

──最後に、このインタビューを読まれている読者の中には「自分も三〇〇〇部突破したい!」という想いを持っている方もいると思います。最後に、そういった方へのメッセージをお願いできますでしょうか。

 そうですね……やり方はいろいろあると思いますが、まずは読者像を想定してみて欲しいです。たとえば、後輩書記シリーズの読者は、妖怪に若干の興味があり、ガチホラーが苦手という二十代から三十代の方をメインとして想定しています。今、リアルタイムで学校生活を送っている十代がメインターゲットではないんです。彼らはお小遣いをあまり持ってないし、小説をあまり読まないから。なので、中高生を意識した文体にはしてませんし、学校の描写もちょっと懐かしい感じで書いています。どういう背景を持つ、どういう年代の、どういうひとに向けて書くのか、読者層のイメージを持って書くと良いと思います。

──貴重なお言葉の数々、誠にありがとうございました。

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